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7-2 彼女に初めて会ったあの日 2

last update Terakhir Diperbarui: 2025-05-26 16:09:40

 それから約1時間半後――

 朱莉は何やら大きな紙袋を手に持ち、青ざめた顔でこちらに向かって歩いてきた。しかも何故か酷く落ち込んでいるようにも見えた。

(一体何があったんだ? このビルに入って行く姿は生き生きとして見えたのに、今の朱莉さんは真っ青な顔色をしている。恐らくあの様子では普通に考えれば面接を落されたようにみえるが……何故重そうな紙袋を手に持っているんだ?)

紙袋には鳴海グループのロゴマークがプリントされているので恐らく面接時に手渡されたものに違いない。朱莉はかなり打ちのめされた様子に見えた。

(朱莉さん……一体何が君の身にあったんだ……?)

その姿はとても哀れで、見るに堪えない程だった。本当は声をかけてあげたいが、朱莉と京極はまだ一度も顔を合わせたことが無い。声をかければ不審がられるか怖がられるだけだ。だから京極は朱莉の後姿を見届けることしか出来なかった。

 そして、そのすぐ後のことである。

朱莉がお金の為に鳴海翔と偽装結婚をしたことを知ったのは——

****

 この部屋を購入したのは本当に単なる気まぐれだった。朱莉の後を追うように京極はこの億ションに住んだ。引っ越す時期が悪く、空いている部屋は一番最上階の40階になってしまった。この階は最も高い部屋だったのだが、朱莉と同じ億ションに住めるならお金は惜しくないと思った。

偶然を装って朱莉に近付き、知れば知る程朱莉に惹かれていった。穏やかな話し方に控えめな仕草。そしてその美貌……。

それこそ自分の理想の女性だった。

だから尚のこと、偽装結婚という立場に追いやり、明日香と恋人同士の生活を楽しむ翔が許せなかった。朱莉を苦しめる張本人たちに仕返しをしようと考えた。妹の明日香を巻き込み、徐々に追い詰めてやるのだと……。

しかし、朱莉の信頼を得る為に良かれと思って京極の取って来た今迄の行動は逆に朱莉を怖がらせることになってしまった。近付けば近づこうとするほど、ますます朱莉との距離が遠くなっていく。

京極に取ってはこれ程辛いことは無かった。

そんな矢先、この部屋が売りに出されたのだ。そして気付けば京極はこの部屋を購入していた。恐らく無意識のうちに、心の距離が遠くなってしまった代わりに、せめて住む場所だけでも朱莉の近くにいたい……。その思いが、この部屋を買いあげるきっかけになっていたのかもしれない。

だが、京極は引っ越し
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